終売になるのが残念で仕方ないチークミート。
ワインで煮るだけで冬のご馳走。簡単調理で“特別”を味わえる、とても便利な食材です。
手順そのものは日常的なお料理と同じでも、材料をちょっと珍しいものに変えるだけで、“ハレの日”感が生まれます。
イベリコ豚はその最たるもので、焼いただけの豚というポピュラーなお料理が、“イベリコ豚のソテー”となればワクワクする食卓。
もちろん名前だけでなく、豚肉の概念を覆してあまりある、濃いのに澄んだ味わいと、締まっているのにあくまで軽やかな食感が、ストレートに「おいしい!」という語を引き出して、食卓の会話が弾みます。
チークミートのお料理は普通の場合は牛だから、豚のチークミート?しかもイベリコ豚?と二重の驚きとワクワク感。
手順は例えば牛スネ肉を煮るときと全く同じ。
小麦粉をつけて軽く焼いたお肉を、野菜を炒めたお鍋に入れて、赤ワインとハーブで煮込み、煮汁をミキサーにかけただけ。
イベリコ豚の特徴は雑味が全くないことなので、牛チークミート煮込みの重厚さに対し、ワインの風味が華やかに出た明るいニュアンスの煮込みになります。
チークミートと言えば長時間の煮込みが不可欠のようにも思われますが、牛より豚のほうが火通りがよいので、蓋が重い多層鍋を使ったところ、1時間弱でスプーンで割れるくらいになりました。
2枚目の写真はその様子。お肉の内部に蓄えられたゼラチン質が、キラキラと光っているのがおわかりいただけるでしょうか。
お肉の繊維はさっくりした歯ごたえでありながら、繊維の間を埋めるゼラチン質により舌触りはなめらか。
ミキサーにかけた煮汁にも、溶け込んだゼラチン質がなめらかさを添えて、一口目を飲み込んだ途端に「おいしい!」という言葉が出ます。
パソコンに向かいながらコンビニのおにぎりで当座の腹を満たすときや、一食を抜いて急いで観劇に向かうときには、“人はパンのみにて生きるに非ず”という言葉の正しさを思います。
けれどいま口にしているハレのお料理のことを、喜びに満ちて語れる食事のときには、パンが豊かなことこそが生の根幹を豊かにするのだと、つくづくとつくづくと感じます。
◎作り方
【野菜を炒める】
・バターを入れた鍋で、適当な大きさに切ったタマネギ・ニンジン・エシャロット・ニンニクを炒める。好みによってセロリを入れても。エシャロットはなくてもOK。
【お肉の表面を焼く】
・塩とこしょうを振り、小麦粉をまぶしたチークミート(豚のチークミートと異なり小さいので、切らずに使います)の周囲を、クセのないオイルを引いたフライパンで軽く焼く。
【煮込む】
・野菜の鍋にお肉を移し、赤ワインをほぼ1本分(場合によっては少し残しておく)注ぎ入れる。
・沸騰したらアクを取り、好みのハーブを加えて蓋をきっちり閉め、お肉が柔らかくなるまで煮込む。
・火をとめてできれば常温になるまで冷ます。
【仕上げ】
・お鍋からハーブを取り除き、お肉はいったんボールなどに取る。
・煮汁をミキサーにかけてお鍋に戻し、お肉も戻し入れてあたためる。
・塩とコショウで調味。あればヴィンコットも入れる。ソースの色をきれいに出したい場合は、残しておいたワインを煮詰めてから加える。好みによってバターを溶かし込んでもよい。
【サーブ】
・マッシュポテトを添えて皿に盛る。ショートパスタなどもよく合う。好みによってピンクペッパーを振る。