高級なイベリコ豚の生ハムは美味しいのですが、赤身の濃い味や強いコク、脂のまったりとした食感など、他の食材とのバランスを考えてもひんぱんに食べられるものではないとも思っていました。いつでも食べられる生ハム、出来れば毎日でも食べられて美味い生ハムは無いだろうか?と、いつも思っていました。
熟成させてなくて調味料液に味付けしただけの生ハムや、調味料液を肉に注入してつくったロースハムはどちらも調味料を大量に使っているために毎日は食べられませんし飽きてしまいます。本来の伝統的な製法で使った生ハムで、熟成をかけて旨味を引き出し素材がよくてシンプルなもの、それでいて深い味わいがあり、様々な食べ方に対応できて、しかも安全で安心できるものがいい。
長い歴史の中で培われてきた優れたもの、例えばナチュラルチーズは発酵して旨み成分が増しますし、我が国の鰹節などもカビ付けされi発酵し、上品な旨み成分が凝縮します。どちらも本格的な料理には欠かせない食材であり、調味料でもあります。このようなことを数年間思いながら、イタリアやスペイン、フランスなどのヨーロッパでは食通の国への出張を繰り返しました。
フランスの代表的な生ハムの産地でありますバスク地方のバイヨンヌなどを何度も訪れたり、イタリアはパルマ地方やサンダニエーレの生産者や展示会の数々を、そしてスペインではマドリッドはもとより、バレンシア、セビージャ、バルセロナ、サンセバスティアンなどのメルカド(市場)や生ハム専門店、テルエル、ブルゴス、ギフエロ、ハブーゴ、エストラマデューラ、トレベレスなどの生ハム生産地を転々として、毎日でも食べられる生ハムを出張の度に探し歩きました。
毎日でも食べられるような生ハムということは、生で食べて美味いことはもちろんのこと、調理にも使えるような素材としてもすぐれているものがいい、、、 イタリアや特にスペインではピンチョスはもちろん、炒め物や、スープなどにも生ハムを使いますが、和食にも使えるようなピュアなものはないか? などと様々な観点から検討すると、白豚をベースとした生ハムに行き着きました。白豚の質の高い生ハムは、強い味わいではなく優しい味わいがするのです。またこの味わいは、熟成をかけることで得られる「自然のコクと旨味」でなくてはならなく、調味料で味付けしたのでは決して味わえないものです。
そうやって1年間で、延べ2ヶ月以上の出張のたびに、何年も現地の市場調査とメーカー訪問を繰り返しているうちに、最後の候補に残ったのが、イタリアはサンダニエーレ地方の生ハムと、スペインはグラナダ県のシェラネバダ山中で生産されるトレベレスの生ハムでした。この両方の生ハムの特徴と共通点は、豚肉本来が持っている甘さと質の高さを高い次元で調和していることと、天然塩(海塩)だけを使い、クセのない旨味を引き出しているということです。
サンダニエーレ地方は、イタリアでは珍しい蹄付の生ハムも作ることでも有名な生産地です。大量生産のメーカーから小さなメーカーまで様々です。生ハムに仕込む肉は、プレスをして血抜きをして、形を整えてからじっくりと熟成をしています。
一方、トレベレスの生ハムのメーカーは11社と少ない上に、シェラネバダ山脈の中腹にある人里離れた奥地にあります。通常の生ハムメーカーは豚肉の生産地の近くや、街に近いところに生ハムの熟成庫がありますが、ここは一番近い生産地からも相当離れた山奥に位置します。歴史的にも数世紀前から、この地で質の高い生ハムを製造していることから、この地が生ハムにかなり適した土地であることがわかります。このトレベレスの生ハムは標高が高いところで作っているために、夏でも寒暖の差があり、大自然の澄んだ香りを含む乾いた風が吹き、薄味の生ハムをじっくりと熟成するには最適な土地だと言うこともわかりました。
双方の試食を何度もした結果、塩気が強くなくクセのないものがトレベレスの生ハムでした。
次に検討をしなければならないことが、本当に僕たちが選んだ生ハムが、現地ではどのような評価がされているのだろうか? ということです。ハモンセラーノは、イベリコ豚の生ハムよりも古くから広くスペイン全域で食されているために、北部を除く国内のほとんど全域で、生産されています。いわばイベリコの生ハムよりも数十倍ものメーカーがあります。そして白豚の生ハムについては、スペインの全国民がいつも食べているので、スペインでの評価はかなり信用できるのではないかと思いました。マドリッドはもとよりバルセロナ、バレンシア、セビージャ、グラナダ、バスクなどの生ハム専門店や市場などで情報収集と試食と現地調査をしました。
スペイン国内での現地調査でも、ハモンセラーノの最高品質のものはテルエルとトレベレスでできる生ハムで、「ハモン・デ・テルエル」と「ハモン・デ・トレベレス」と呼ばれていることがわかってきました。なかでも、ハモンデトレベレスのブラックラベル23ヶ月以上熟成のものは、スペインの生ハム専門店でも最高ランクのものです。ハモン・デ・トレベレスと呼ばれるものは、現地のトレベレス協会で与えられた生ハムにしか名乗ることができず、協会では生ハムの豚の品質から熟成と出荷に至るまで細かい項目で厳しく管理されているとのことです。
そのトレベレスがあるグラナダ県のグラナダという街がスペインのアンダルシア州の東部にありますが、この周辺には品質の高い生ハムの生産者が存在します。またこだわりのハモンセラーノを中心とした優れたバルがあるところでもあり、同じく生ハム専門店なども、質の高いハモンセラーノにこだわっている街でもあります。グラナダの情報収集でも、やはりトレベレスの生ハム(ハモン・デ・トレベレス)が一番ということでした。
たび重なる何社もの試食を現地と日本で行い、トレベレス現地に出張をして試食を繰り返した結果、「生ハムの味がピュアで雑味がなくクセがない」トレベレスの、とあるメーカーの生ハムを扱うことが決まりました。
トレベレス村はスペインのアンダルシア州、グラナダ県のアルプハーラ地方にあります。シェラネバダ山脈の国立公園として管理されており、大自然に恵まれた大変美しいところです。清涼な空気と気候風土が生ハムの生産に良く合い、厳選されたハモン・デ・トレベレスの生産地としても避暑地としても、そして観光の地としても静かな脚光を浴びています。
このアルプハーラ地方には数カ所の美しい村が点在していて、大自然を愛するヨーロッパ各国の人が移り住んだり、避暑地として夏の間だけ移住をしたりしています。その中の1つにフビレスという村があります。人口は80人足らずの村で、トレベレス村と比べるとかなり小さく、生ハムのメーカーは1社しかありません。(ハモン・デ・トレベレスの生産メーカーはこの会社を含めて11社です。)
このフビレス村は標高が1250m(栃木県日光の中禅寺湖と同じくらい)で、トレベレス村よりも標高が多少低く、山を一つ隔てて十数キロ離れています。そのために微妙に違った風が吹きます。トレベレス村は山の谷あいにあり、その間には渓流が流れ、フビレス村より日照時間が全体的に短く、多少湿り気を帯びた風が吹きますが、フビレス村は南斜面で川がなく、日中は太陽の日差しを長時間受けるために乾いた風が吹き、夕刻からは山から冷たい涼風が吹いてきます。この風と空気の循環が大自然の澄んだ環境で行われ、乳酸菌など生ハムに必要な良質な菌が育つ、理想的な自然環境が備わっています。この環境と同等程度のところはスペインでもめったに無いのではないでしょうか。
この理想的な大自然に恵まれた環境の中で、ハモン・デ・トレベレスを生産する生ハムメーカーがあったのです。Jamones de Juviles(ハモネス・デ・フビレス、フビレス社)といい(以下フビレス社)ハモン・デ・トレベレスの生ハムのおおよそ40%を製造しています。
人口80人足らずの小さな村にある大きなフビレス社
フビレス社にはこの恵まれた環境を生かして、添加物を使わずに、塩だけで美味しく安全な生ハムを作る数々の「こだわり」がありました。
フビレス社があるフビレスは、トレベレス(アンダルシア州グラナダ県)とは9kmぐらい離れていますが、トレベレスよりも乾いた風が吹くといいます。トレベレスにあるような川がある谷間はなく、南側の山の斜面に位置するために、1日の日照時間が長く、この辺一帯は生ハムづくりに最適な乾いた風が吹くそうです。ちなみに標高は1250mで、栃木県日光市の中禅寺湖と同じくらいの高さにあります。
フビレス村を訪れて、日中の日差しの強さとは裏腹に、夜になると冷たく乾いた心地よい風が吹くことに驚きました。実際、コルドバなどは夜の9時30分頃でも37℃もあり、結構湿った「熱風」が吹いていましたが、このフビレスは全く違っていました。この風は日本では経験したことのない風で、スペインでも初めて体験する風でした。
フビレス社からシエラネバダを望む
冷蔵庫内にある塩漬けが完了間もないハモンです
天然塩でじっくりと塩漬けされた豚モモは、洗浄後に冷蔵庫内で4~5℃の温度帯で寝かせられます。青いパイプのようなものが見えますが、これは外からシェラネバダの自然の空気を取り込んで冷蔵庫内に流しているものです。これだけの大自然に恵まれた環境だからこそ、自然の空気を大切にした設備ができるのです。
また「ハモンを美味しく熟成させるためには設備費用を惜しまない、最高の設備環境で生ハムを作りたい」というフビレス社の意志が感じられます。
風が吹き込む側に空気口が開けられています。
右下の黒い四角い窓が、外から自然の空気を取り込むフィルターで、左中程の長方形の窓が冷蔵庫内の空気をはき出す排出口です。こうやってシェラネバダの風を、庫内に24時間365日循環させることで、香り高いハモンにじっくりと仕上がっていくのです。
塩漬け完了後、数ヶ月経過した豚モモです。 脂は白く、霜降りの良質な肉で、皮付きの状態であることがわかります。皮付きだからこそ、元々もっている脂の厚さはごまかしようがないのです。良い豚はしっかりと分厚い脂がのっています。
塩漬け完了後6ヶ月ほど経過したハモンです。塩分も徐々に浸透をしていき、熟成が活性化してきます。この後は時期により冷蔵庫の外の熟成庫に出されて、シェラネバダの風を直接受けて、じっくりと旨み成分を蓄えていくことになります。
自然の空気を取り込むフィルターの下からみた風景です。生ハムを作るのに最高の風が、ここにはあります。
夏場の日中は南の斜面の為に温度があがり、陽が落ちると冷たく乾いた風が吹きます。1日でも寒暖の差が大きく、生ハム作りには理想的な環境です。
熟成庫の大理石の床に、オリーブオイルのような脂がたれています。イベリコ豚の生ハムにはよくあることですが、白豚のハモンセラーノでは「ごくまれ」です。脂が常温で溶けるということは、脂の質が非常に良い豚を使っているということに他なりません。
大理石の熟成庫内は夏場でも24℃以上になることはありません。ということは、この脂は24℃以下でも溶けるということになります。口に入れて噛みしめたときにふわッととろけるような脂は、生ハムのジューシー感を引き立てることになります。
熟成庫は地下1階・地上4階ですが、床は全て大理石です。基本的にこの熟成庫は石がふんだんに使われています。土地柄寒暖の差が激しいので熟成庫の中は夏と冬の温度差を近づける働きがあり、窓の開閉や風の量の調節で冷たい風や温かい風を取り込みボデガ(熟成庫)の中を最適な状態に保つように出来ています。
熟成庫内の床は毎日きれいに洗い流しているので、写真の脂は昨日から1日でハモンからたれてきた脂です。
ハモンの美味しさの一つに、「良質な脂と肉質をもった豚を使う」ことが必須ですが、その意味でも口の中で溶ける脂で、できあがったハムを含んだときのジューシー感を伴った食感のすばらしさがあります。
そのこだわりの豚は数十頭に一頭の割合で選別されます。生ハムになる豚肉は仔豚を産んでない雌豚か生後1ヶ月以内に去勢された豚でデュロック種との掛け合わせです。生後1ヶ月を過ぎて去勢をと生ハムにクセや雑味が混じってしまうそうです。
豚の生産社はムルシアの飼育業者兼生産メーカーで1日の屠殺頭数はヨーロッパでも有数の生産量を誇っているといいます。この業者とは30年来の付き合いだそうです。ちなみにスペインの豚肉の生産量はヨーロッパではドイツに次いで2位、世界でも中国、アメリカ、ドイツに次いで4位の豚肉生産量を誇ります。
マサ側(足の平側)から切り始めてみます。この脂があってこその良質な肉質がこの生ハムにはあります。写真のような脂は炒め脂やバケットに乗せたり白身魚との相性もいいです。切りすすむと、生ハムで一番美しい断面が現れます。濃い赤の部分は内モモで、薄い霜降りは外ももです。 この部位は、一度に両方の味が楽しめます。
これが切り立てのハムです。テカっているのは常温で脂が溶けているためです。
フビレスの生ハムは、脂の多い所をあえて除かないで一緒に食べます! とてもジューシーでたまらない美味しさです。でもそれが出来ない場合は、ベーコンのように火を軽く入れて食べる方法もあるそうです。肉質が良いからこそできる食べ方ですね。
ハモンデトレベレスの伝統的製法を守り、トレベレスの風土とハムを愛するぺぺ氏は、トレベレス生ハムの職人としてこの地にこだわり、トレベレス協会を愛し、そしてハモンセラーノを愛する、その姿が印象的でした。
毎日でも食べられる(食べる気になる)ハモンセラーノをトレベレスに求めた一つの回答が、この生ハムの味わいにあるような気がします。
フビレス村にあるフビレス社には、品質の高いトレベレスハムを製造するためのこだわりが多くありますが、その一つとして、厳選された原料豚の塩漬け工程における丁寧な血抜きにあります。原料豚の血抜きの仕方によってその後の仕上がりに影響がでてしまう重要な工程になります。
※岩塩は使いません。なぜなら塩辛い上にミネラル分の種類や割合も少なく生ハムの味が良くならないからだそうです。海水からの塩(海塩)が肉の味を引き出すそうです。
塩漬け庫の塩はハモンの製造が行われない7月~9月の間にも、こうやって冷蔵庫内で塩を寝かせます。こうして「よくこなれた角のない塩」が出来上がります。
フビレス社の作業室内。こうやって製造が行われていない日にも清掃は欠かしません。清掃をしている人の右から、塩漬けされたハモンを洗浄する機械、真ん中右がマッサージして血抜きする機械です。
フビレス社では、マタデロ(屠殺場)で血抜きをしてきた豚の後ろ足をフビレス社に入荷後に更に3回もの血抜きを行います。
更に塩漬けによって出てくる余分な水分と塩分を取り除き、最後の血抜きを行います。この工程は塩分を一定に行き渡らせるマッサージ効果もあるそうです
このようにフビレス社に入った豚の後ろ足は塩漬けの工程で、丁寧に3回もの回数を血抜きをされ、クセのない(豚臭くなくピュアな!)生ハムに仕上げるために重要な塩漬け工程が完了するのです。
※通常はマタデロ(屠殺場)で血抜きをされたあと塩漬け前に1回ぐらいしか血抜きをしません。
フビレス社の熟成庫内。床は総大理石張りで清潔感があります。フビレス社を訪れたこの時期(7月)には、ハモンの仕込みはしていませんでした。そのほとんどを冬場に仕込むといいます。ちなみにハモンの数は23万本ほどあるそうです。
フビレス社は7月~9月の時期は、いっさい豚モモの仕入れと塩漬けをしません。このことが品質の高いハモンを製造する大きな「こだわり」になっています。
その理由は2つあります。
一つめの理由は、スペインの夏は日差しが強く豚の生産地の温度は40℃前後の暑さになるために、屠殺された豚の肉質も良くないし(水などを飲み過ぎたりストレスや暑さで体力が衰えている)、生産された豚の鮮度にもいいことはないということが一つあげられます。
2つめの理由は、夏場は生の肉を塩漬けから仕込んでいくには適したシーズンではないということです。日中でも乾いて冷たい空気が吹き始める10月以降がハモンの塩漬けの最適なシーズンになります。
暖かい時期は一切の塩漬けを行いません。豚の肉質が良くなり、最適な風が吹き始めるシーズンに仕込める余裕こそが機械化がなせる技です。せっかく生ハムに良い環境で熟成をかけられても、仕込む時期に妥協をしていたのでは良い生ハムはできてこないのです。
実は、このことは良い生ハム作りにはかなり影響してくるのです。年間を通して、一定の忙しさのほうが経営がしやすく、人員の確保などもしやすくなることから、普通のメーカーは夏場にもハムの塩漬けを行ってしまうことになるのです。そうすると生ハムには当たり外れがでることになってしまいます。わかっていながらやらざるをえない状況がそこにはあるのです。
一切の妥協をしないためには、肉質が良いシーズンになったら大量に仕込めるしくみ(機械などで生ハムのラックごと動かせながら最適な温度と湿度が管理できるシステム)と秋口から乾いた冷たい澄んだ風が吹いてくる気候が必要です。
シエラネバダの人里離れた奥地に、圧倒的なボリュームの熟成庫が存在します。
シェラネバダ山脈の澄んだ乾いた風を、夏場は夜に取り込み、日中は閉めたりと調整をします。
大理石張りの建物の効果もあり、夏場の日中でも熟成庫の温度は24℃以上になることはなく、冬場は外がマイナス 10℃になっても4℃前後を保っているために塩が生ハムにゆっくりと入り甘さを引き出します。
またフビレス村の特徴として、1日の寒暖の差があり夏でも夜になると乾いて澄んだ風を取り込むことができ、この風があるからこそ質の高い生ハムをつくることが出来ます。実際に夏の3日間を滞在しましたが夕刻からはシエラネバダの標高が高いところから冷たく気持ちの良い風が吹いてきていました。
フビレス社は恵まれた自然環境の中で、職人の技と知恵を械化を導入することによって理想的な生ハム作りの環境に作り上げ、美味しさの為には妥協を許さない一貫した生ハム作りを貫いているのです。
僕が訪れたときには67歳の社長が、昔は1本ずつ肩に担いで地下のボデガから上まで生ハムを上げたけど、今は機械で自動で出来るために質のいい生ハム作りに専念できるようになった。。。と語っていたのが印象的でした。
この山中で、生ハム作りには最新鋭ともいえる設備が備わっています。
訪れたこの時期(夏)は、いっさいの仕込みは行われませんが定期的に工場の清掃は行われていました。
フビレス社の巨大な生ハム熟成庫とフレーム設備です。4階までの床全てが大理石張りで熟成庫内は非常に清潔で床はもちろんのこと生ハムを吊しているフレームごと洗浄が出来るようになっています。この熟成庫のフレーム設備には生ハムを季節ごとに入れ替えたり熟成の度合いによって熟成庫の階数を入れ替えたりのことが自動でできるようになっています。
左のフレーム1台に裏表42本の生ハムが吊され写真に写っているだけで約630本のハモン・デ・トレベレスが下がっています。
この全自動の地下から地上4階までをフレームごとに入れ替えができるシステムこそ、わずか人口80人の村で、これだけの量の生ハム仕込める理由です。
そして肉質の良い秋口からの豚しか使わず、塩漬け後の冬の良質な冷風にさらすことによって、甘みのある生ハムに仕上がっていきます。
写真のように、フレームをつなぐアームの幅を調整でき、風の入りを調整できるようになっています。より乾燥したいときにはアームを長く、反対に乾燥しすぎるときにはアームを短くしたりして調整が出来、窓の開閉と合わせて複雑な天候にも対応されます。
天井には、このフレームが通るようにレールが敷かれていて、地下のボデガから4階の一番上に、自動で上げることもできます。1時間に数百のフレーム(一万本単位のセラーノ)を、自動で移動できるということです。
ハモン・デ・トレベレス協会は協会に入っている各メーカーの品質を厳しく管理しています。その一つが塩漬け6ヶ月後に行われる検査です。各ロットごとに5 本ずつ役人が持ち帰り検査をします。この検査に合格しないとハモン・デ・トレベレス(DEのラベル)として熟成ができません。
以下はその一部分です。
ブラックラベル(23ヶ月以上熟成)のハモンデトレベレス、フビレス社製です。しっかりとしたボディの生ハムで、口に含むと心地よい芳香とジューシーささえ感じました。写真はマサ側ですが脂の多い所は、上質な生ベーコンのように火を入れて使えます。脂は最もいい状態で熟成しており、冷めてもしつこくありません。
重量はしっかりと11kg!はあります。生ハムの裏側が皮で覆われているために、脂の質感が非常に良好です。上質なバターのような風味が脂にはありラルド以上の質のいい出来具合です。実際には、このハモンは28ヶ月熟成をしているそうです。普通のブラックラベルのものよりも良すぎるといいながらも、フビレス社のぺぺ氏はカットし始めました。
切り立てが美しい、ハモン・デ・トレベレス。切り立てでも5分ぐらいはこうして空気を吸わせることで更に美味しくなります。オーナーのぺぺ氏は、これはブラックラベルでも良い方なので、全部が全部こういう出来とは限りませんとのことでした。
この切り口と質感がたまりません。この部位は3回美味しさを楽しめるところです。
下の色が濃いところは、内モモで味と塩分が濃い比較的乾いた部位です。上の霜降りの色の薄いところは外モモのところで、塩分が薄味でしっとりとした食感があります。そして一番上の脂のところは、バター、又はそれを通り越すようなクセのないしっとりとした食感です。このように3つの味わいがあります。一緒に口に含むと3種類のマリアージュを楽しめます。
この部位(マサ側)をカットする際は、写真のように脂を付けておいてください。お客さんには、あらかじめこのように断っておくのはいかがでしょうか?「脂はあえて付いていますが価格には入っていませんので、お好みで召し上がって下さい。スライスパックでは決して味わえない美味しさがありますので」
イタリアでは、ラルドという豚の背脂の部分を塩漬けして、生で食べる習慣がありますが、こちらの方がより熟成していて脂がこなれているので不飽和脂肪酸の割合も高いはずだと思います。肝心の味わいはピュアでバターのようでクセがありません。イタリアのラルドが数ヶ月熟成に対してこちらは24ヶ月の熟成、不味いわけがないし、捨てるのは非常にもったいないです。
そしてぺぺ氏が言っていたことは、興味深いものでした。「うちのセラーノの脂の多い所は、ぺーコンのように軽く火をいれても美味しいよ。。。」なるほど、これは美味しそうです。かる~くフライパンで、表面の色が変わり脂がにじむぐらいに火をいれてバケットに乗せる、、、美味しさが想像できると思いませんか。
こちらはレッドラベル(20ヶ月熟成)です。現在きっちりと20ヶ月熟成していて、念のために日本にいれるものをテイスティングしてみました。まだカビ付けの段階で、香りと味を出している段階だとぺぺは言っていました。日本に入れる時はあと数ヶ月熟成をかけたレッドラベルを入荷する予定です。
夏場の日中でしっかりと汗をかき、夜にはシェラネバダの冷たい風を受けて、ハモンが香り高くなっていくのがこの地方のハムの特色とのことです。
マサ側(蹄の平側の内モモと外モモ側)の部分は美味しくて当然ですが、バビージャ側がどんなあんばいか?が重要なのです。霜が降っていない赤身の部位の全体的な味わいがわかるからです。
試食をしたところ、赤身が乾いていなくてなめらかで、しっとりとした食感と、赤身の味の濃さを楽しめました。脂をあまりカットせずに、赤身とのマッチングを楽しむのも面白いです。